■ 自宅を天文台にしてしまう人。冬になると喜々とする人。気軽に星空を楽しむ人。
古くはエジプト文明やインカ文明でも天体観測が行われ、天体の運行により暦や時刻を知り、いつ作物の種を蒔くかなどの農業暦も作られていました。また、エジプトのピラミッドやインカの天文台跡、ヨーロッパでもストーンヘンジなどの巨石遺跡の中には、春分や秋分を観察していたことを示すような構造が見られます。のちに、海運が発達するにつれ、星は夜間の方角を知る道しるべとして用いられ、北極星・北斗七星は北方向を指し示す代表的な天体でした。スカイウォッチングの世界は、太古の昔より星たちが日常的に人々とともにあったのです。
そして今、都会では夜でも地上の明かりが消えず、星空が人々の前から失われつつある中で、自宅ベランダをあたかも私設天文台のよ560うに改造し、新星を発見することに喜びを見出したり、空気が澄んで星が見えやすくなる冬を待ち望み、太陽や月や水星、金星、火星、木星、土星などの太陽系惑星、他の銀河系星団を天文学的に観測する「ハードな天体観測ファン」と、学問的な観点や特定の目的を持たず、折々に望遠鏡や双眼鏡で夜空を見上げ、「月を含む惑星や天の川や様々な色で明るく輝く星たちを見て楽しむこと」を目的とする「趣味のスカイウォッチングファン」に分かれているのが現状です。
趣味のスカイウォッチングは、楽しむことを目的としているため、難しい天文学の知識の必要はなく、ある程度の著名な星の位置を知っていたり、星座を知っていたりで十分楽しめる世界です。
最初は家族でプラネタリウムに出かけたり、各地の天文台が開放している大型望遠鏡を覗いて土星の輪や木星の縞模様に驚いたり、知識のある人を講師にした観望会に参加し、天の川の所在や、北極星の探し方、夏の大三角形、冬の大三角形、星座の形と名前、それにまつわるロマンチックな物語を聞くだけでも、楽しいものなのです。
■ これからスカイウォッチングを始めようとする皆様方へ。
家族そろってプラネタリウムに行く。
夜空を楽しむ第一歩は、お近くの「プラネタリウム」に出かけてみることです。椅子に座り横たわり場内が暗くなって解説が始まりその季節季節の夜空にどんな星たちが輝いているかが天空に映し出されます。新しく発見された星雲、最先端の天文科学理論なども説明されることもあり、サイエンス知識までも満足させてくれるのが、最近のプラネタリウムなのです。
あなたは誕生星座は何ですか?自分の星座がどんな形をしているかを教えてもらえるのも一興です。帰りのお土産に、売店で「星座早見盤」を買って帰れば、明日の夜、北の空、南の空、西の空、東の空にどんな星座があるかがすぐにわかります。ご自分の星座が何月頃どの方向に出て来るかもすぐわかります。
次は、各地の天文台、天体観測施設などが主催している「観望会」に参加してみましょう!
(天文台建物写真:photo by Yutaka Iijima)
例えば東京周辺では、国立天文台「三鷹キャンパス」で毎月2回、第2土曜日の前日夜及び、第4土曜日の夜に観望会を実施し、惑星や星団、二重星などその時期に見やすい天体を実際に見ることが出来ます。受付時間は、夏季(4月から9月)が 19:30から20:30、冬季(10月から3月)が 18:30から 19:30となっています。事前の予約や参加費は不要で、受付終了後、まず講義室でその日の観望天体の簡単な解説を聞き、解説が終わり次第、誘導係の方が望遠鏡へご案内します。そして、いよいよ実際に天体観望。50cm社会教育用公開望遠鏡があなたを宇宙の世界へとご案内します。月のクレーターや土星の環、淡い星雲や煌びやかな星団など、その季節に見やすい天体を皆さんの目で実際に楽しんでいただけます。口径50cm社会教育用公開望遠鏡の横には、移動用の口径8cm屈折望遠鏡と大型双眼鏡を設置することもあり、こちらでは、その日の観望天体以外で旬な天体をご覧いただけることもあります。
今まで雑誌や新聞でしか見ることが出来なかった星たちを自分の目で確かめてみてください。驚きがあります。感激があります。感動すら覚えると思います。
さあいよいよ実際に夜空を!出来れば月明かりがない夜、ちょっと郊外へ。
スカイウォッチングの基本は、晴れた夜になるべく視界の開けた場所で行なうことです。明りのない暗い場所でしばらく目を慣らす(暗順応)と、より多くの星が見えてくるようになります。暗順応には10分から人によっては30分程度を要します。明るい光が少しでも目に入ると一瞬で暗順応前の状態に戻ってしまいますから、懐中電灯を点けたり車のライトを点けたりは大きなマナー違反になりますから注意しましょう。
スカイウォッチング中は、街灯などの光がなるべく目に入らないように注意してください。星座早見盤を見るために懐中電灯を使う場合は、赤いセロファンなどを貼って光量を最小限に絞って使うのがマナーです。携帯電話のバックライト等も意外と明るいので注意が必要です。
天の川が見えるような満天の星空を楽しみたい場合は、月明かりの無い夜を選ぶことが大切です。明るい月明かりがあると、淡い微光星や天の川の輝きをかき消してしまい、見える星の数が大幅に減ってしまうからです。また同様に、人工光による光害を避けることも必要です。
大都市の街明かりは、数十km離れていても影響が残る場合があり、現在の日本では、月明かりが無い快晴の夜であっても、天の川が見える場所は少なくなってしまいました。加えて、大気による光の吸収の影響を軽減するため、なるべく標高の高い場所に行くとなお良いのです。
気をつけなければならないのは、スカイウォッチングは夜間に行なうものなので、安全面に注意するとともに、観測地周辺にお住まいの方達に迷惑がかからないように気をつけて楽しみたいものです。夜間は冷え込む場合があるので、防寒対策には十分注意し、特に、標高が高い場所に行く場合は、たとえ夏場であってもウインドブレーカーやトレーナーなどそれなりの備えが必要です。(左写真=月が出ている夜、右写真=新月の夜の星の見え方)
▲月夜は星が見えにくい。
▲出来る限り新月に近い夜に。
夜空の星の数。
多いもの、数えきれないものの代名詞として「星の数ほど」という言葉があるぐらいですから、夜空に光る星の数は相当なものだと思われるかもしれませんが、肉眼で見える星の数は意外に少ないのです。
肉眼で見える全天の星は、一等星が21個、二等星が67個、三等星が190個、四等星が710個、五等星が1100個、六等星が5600個ですから、全部足すと8600個あまりですが、都市部などの町中で見えるのはせいぜい三等星までで、しかも一度に見ることができるのは地平線の上に出ている半分だけですから、まあ100個も数えられればよい方でしょう。
空のきれいなところに行けば五等星、六等星の星も見えますが、それでも一度に見えているのは4000個程度です。どうですか?「星の数ほど」という割には、肉眼で見える星の数は思ったより少ないと思いませんか。(参考:オーエス出版/星と宇宙の通になる本)
6等星から始まる星の明るさの基準。
ところで、この一等星、二等星......という星の等級は、どのようにして決められたかご存知ですか?最初に等級で星の明るさを表したのは、紀元前のギリシャの天文学者ヒッパルコスだと言われています。彼は、ようやく目に見える星を六等級の星とし、明るさが増すごとに五等、四等と順番につけていき、一番明るく輝く星を一等星としたのです。
彼が決めたこの分け方は長い間そのまま使われてきましたが、1830年頃に初めて星の明るさが科学的に測定され、その結果、等級が一つ違うと明るさは約2.5倍違うことがわかったのです。六等星と一等星では2.5の5乗で約100倍明るさが違うということです。
ちなみに、一等星より明るいものは0等星、-1等星、-2等星となります。この数え方でいくと、太陽は-26.8等星、月は-12.6等星、金星-4.7等星、火星-3.0等星、木星-2.8等星、水星-2.4等星となり、いかに明るく見えるかがわかりますね。(参考:オーエス出版/星と宇宙の通になる本)